相対交渉と書面交渉
ライセンスオファーのレターに引き続いて、面談による相対交渉に進む場合について、いくつかエントリを書きました。
相対交渉|第1回面談:説明と質疑応答 - 特許の攻撃防御、そして交渉
一方で、書面に書面で回答し、その往復を重ねていく場合もあります。今回は、こうした書面回答のときに気をつけていることについて書いてみます。全体の基本姿勢のようなもので、第1回の回答書面に限りません。
言い過ぎない
基本は、一にも二にも『言い過ぎない』ことです。『あのときの書面でこういわれてますよね?』と突きつけられて戻れなくなる(=言質を取られる)ことを避けるためです。
感情のままに返さない
ライセンスオファーのレターというのは、暗に(明示している場合もありますが)特許侵害を警告しているわけなので、受け取った側から見ると、居丈高で、根拠に乏しく、言いがかりのように見えることが多いものです。
このため、読んでいるうちに、反論したくなることが山ほど出てきて止まらない、となることがあります。
とはいえ、その反論がどんなに正当だとしても、いま相手にぶつけるのが良いのかどうかはよく考える必要があります。反論は、最も効果的なときに出さなくてはもったいないのです。
争点を絞る
また、あれもこれも言いたい点はあるのが通常ですが、争点は選ばないと、百花繚乱的に出したところで話が発散するだけで、書き手として気持ちは収まるかもしれませんが、百害あって一利なしです。
自ら語らない(サービスしない)
争点を絞って、今回の回答では、この点だけを言うことにしよう、と決めてからも、それを巡って考えたことを、つい懇切丁寧に解説したり、聞かれてもいないのに理由付けを一生懸命並べたくなったりもします。でも、これも禁物。言葉を尽くせば尽くすほど、言質を取られるポイントが増え、知らずに自分に落とし穴を掘ったりすることにつながります。
例えば、『分からないので説明してください』といいたいのなら、分からない箇所と依頼の文言だけ書けばよいはずです。自分がこう考えたとかああ考えたとかは不要です。
時には、テクニックとして、自分が持って行きたい方向へ相手を誘導するために、あえてそれっぽいことを書くことはあります。でも下手にやるとやぶ蛇になりますので、よほどの場合でないと控えた方が賢明です。
用語の選び方の基本は『オウム返し』
相手が言ってきたことについて言及するのであれば、通常の業界用語や社内用語に言い替えるのではなくて、その文言そのものをオウム返しにして使いましょう。
言い替えたことが誤解に繋がったり、相手を刺激してしまったりすることもあります。また、この言い替えがこちらの解釈だと主張されて不利になる、言質を取られることにつながることもあります。余分なリスクは取らないのが吉。
相手が『説明資料』と言っているなら、わざわざこちらからこれを「クレームチャート」に言い替える必要はありません。実態はクレームチャートだとしても、当事者間で定義付けがすんでいるとして、『説明資料』で通しましょう。
この原則を徹底して守るためには、複数回のやりとりをしているときに、直前の相手書面だけを見て回答を起案するのは危険です。今回初めての用語だと思っていたら、実は印象に残っていないだけで前々回登場していた、なんてこともあります。全てのやりとりを並べてじっくり眺めて用語選びは慎重に。
回答を作る前にシナリオ作りは必須
もちろん、この回答だけを見ていたらまずいので、これを出したら相手はこう答えてくるだろうから、それに対してこちらはこうかぶせて、すると、その次はこの争点を持ち出してくる可能性が高いから、云々、と今後の数往復分について、3本くらいのシナリオを立てておきたいところです。
このようにシナリオをつくっておけば、あれもこれも一度に盛り込んでしまい、言い過ぎる、ということを防ぐ効果もあります。
相手が意味不明な回答をしてきたら
会社間だとけっこう担当のレベルにばらつきがあるので、何が言いたいかさっぱりわからない文面が飛んでくる、ということは実はわりとよくあります。
とはいえ、ここで受けた印象のままに、意味不明です、と返したところで前進しないのは明らかです。
意味が不明瞭な記載があるということは、たいていの場合、二重三重に意味が取れるということです。そのなかには、こちらに有利な解釈が転がっていることもあります。ということは、意味が不明な文面が来たら逆にチャンスで、自分に有利なことを言ってもらったと解釈し、相手に前言撤回させないように持っていくことを考えましょう。これに対する回答では、
先の書面において、貴社はこのように述べられており、××であるとお考えのことと思量致します
と、念押しをしておきます。そうではない、と反論されることもありますが、その場合には、先に出した言葉の解釈に基づいて行う必要がありますので、反論できる幅が狭くなっており、その分自社側に有利になっているはず。(具体例がないと少々分かりにくいですね)
逆に、自分が不明瞭記載をしてしまうと、同じように追い込まれる危険が高いので、意味不明になっていないかは二重三重にチェックする必要があります。