ライセンスオファーのレター
他社から特許侵害を主張される場合、いきなり訴訟になることも(特にアメリカでは)ありますが、事前にレターが来ることの方が多いです。このレターは、代理人弁護士の名前で来ることもあれば、特許の所有者(特許権者)から直接来ることもあります。
こうしたレターに
貴社製品が当社特許を侵害していますので直ちに製造販売を止めて下さい
とまで書かれていることは多くはなく、
貴社製品は、当社特許を利用されており、当社からのライセンスが必要ではないかと思います。ついては、その条件について話し合いましょう
のようなライセンスオファーの形をとることが多いです。
打合せの設定
そして、このようなオファーレターに引き続き、特許権者の方とミーティングの設定に進むこともあります。相対(あいたい)交渉ですね。
被疑侵害者と目されている側としては、ミーティングを好んでやりたいわけではありませんが、たいていのオファーレターには、誠意を見せないと法的手段に訴える、とやんわり書かれていますし、アポイントを求める電話がかかってくることもあります。打合せの場を設けた方がよい、という判断になることも少なくありません。
相対交渉の始まり
最初のオファーレターの中に、詳細な主張が含まれていることは稀です。権利を主張する対象特許の番号と名称、侵害品と特許権者が考えている製品の名称や型番が入っている程度で、なぜその製品が特許を使っているのか、という点についてはあまり触れられていないのが通常です。
そして、特許権者の方は、打合せの場を設けたい、という理由として、
貴社製品と特許の関係についてご説明した上で、ライセンスの条件を提示させて頂きたい
といわれます。ここまではっきり言われずに、
今後の進め方についてご相談したい
などとオブラートにくるんで言われることもありますが、意図としては変わりません。
ということで、相対交渉の始まりは、特許権者の方からの説明ということになります。
クレームチャート
第一回の打合せで、特許権者からは、特許の権利範囲に被疑製品が属する理由を説明した「クレームチャート」が示されて、その内容について説明されることが通常です。
なお、特許の権利範囲は、英語でclaimと呼ばれ、日本語では「特許請求の範囲」となります。長いので、日本語でも「クレーム」と称することが多いです。「クレームチャート」は、左に特許請求の範囲の文言、右に被疑製品、と並べて表の形で作るため、「チャート」=表と言われます。
第一回は、このような説明セッションですが、被疑侵害者側としては、説明をお聞きするだけで特に準備なしで臨む、というわけでもありません。
先方の主張を予想して反論を考える
この段階では、特許権者側の主張の詳細が分かっているわけではありませんが、特許と被疑製品は特定されていますので、なぜそのように主張されるのかの予想を立てていきます。特許権者になったつもりで主張するとどうなるか、というものです。
併せて、そのように主張されたら、どのような反論が可能か、ということも考えていきます。
このように、先方主張の予想とそれに対する反論を1セットで考えていきますが、先方主張はあくまで予想なので、幅を持たせます。解釈可能な限界まで特許の権利範囲を広く捉えたらどうなるか、それに対してどう反論するのか。反論に対して再反論しやすい程度に納めてくるとしたらどのような主張になるか。それに対してはどう反論するのか。
権利の範囲は複数の要素で成り立っており、主張と反論のポイントも複数になることが多いです。相互に関連もします。このため、先方主張と反論のセットも、いくつかのパターンを用意する、というよりも、幅を持った形で考えておくにとどめます。実際に相対したときに、先方の発言が、自分の予想の範囲に入ってくるだろう、という期待が持てた時点で準備は終了です。
予想のためには、(1)特許の明細書の読み込み、(2)出願経過書類の読み込み、(3)被疑製品の構造/構成/処理内容の理解、が必要になります。(1)と(2)は、特許権者が特許をどのように解釈してくるかを予想する根拠となり、これに(3)を組み合わせて、特許と被疑製品の関連づけをどのように行ってくるかの予想を立てます。(3)については、当然自社の方がよく分かっているので、併せて反論を作っていきます。
確認ポイントを持っておく
予想と反論を作っていく過程で、解釈の幅が分かってきます。この幅の中のどの位置に先方が立つのかによって、こちらの反論方法も、反論の強さも変わってきます。そこで、どの位置に先方が立つのか、先方の解釈を明らかにしていくための確認ポイントを設定します。
打合せの場では、設定した確認ポイントについて答えが入手できるように進めていきます。先方の説明の中で明らかになっていく場合も多くあります。不明な場合は、それを明らかにするための質問を行い、その回答で明らかにしていきます。
相対交渉に慣れないうちは、このような確認ポイントをメモの形で持っておくのが有用だと思います。実際に先方とFace to Faceで会うと、舞い上がってしまって確認を忘れることが少なからずあり、議事録を作っていて聞き忘れに気がついて臍をかむ、ということにもなりかねません。