知財渉外の仕事は、訴訟で協働したり、契約書を検討してもらったりなど、法務部門との距離が近いです。組織として同じ(本)部の中に置かれていることも多くあります。
また、事業部門で進めていることは法務部門には相談や契約検討依頼などでインプットがあり、知財部門には発明相談などでインプットがありますので、背景事情や事業部門の動向について定期的に情報交換をしておくと会社にとって最適な解を出しやすくなります。
とはいえ、お互いに業務が重なりあっている部分はそれほど大きいわけではありませんから、隣にいたとしても何をやっているのかは見えにくいものです。
そうした中、経営法友会から下記の書籍が刊行されました。
- 作者: 経営法友会企業法務入門テキスト編集委員会
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2016/04/13
- メディア: 単行本
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「はじめに」によれば、「はじめて現場に配属された法務担当者が、実際に担当する仕事のイメージをつかむことができるような書籍」を目指して、経営法友会において「企業法務の担当者がリアルに感じることのできる実務書を刊行しよう」との企画から執筆されたとのこと。
本書は、「法友電気」という架空のメーカーに在籍する3人の主要登場人物(配属されたばかりの入社2年目社員の濱田、インハウス弁護士の仲真、法務一筋の佐々木課長)が法的な実務課題に直面し、奮闘するストーリーを軸に、解説やコラムで構成されています。
分かりやすさを狙ってストーリー仕立てにするのは最近よく採用される手法ですが、本書は解説パートに頼ることなくストーリーだけで大体の法務の仕事がイメージできるようになっており、とても分かりやすいものに仕上がっています。
カバーされている分野も多岐にわたっており、その分1つ1つは短いため、相当割り切りもされていると思うのですが、その甲斐あって業務の全体感を伝えるのに成功していると思います。電気メーカーでのストーリーであり、業種が違えば異なるところも多々あるでしょうし、各社で法務がどこまで管掌しているかは様々ですから、該当しない会社もあるでしょうが、法務の仕事を伝えるのに最適な1冊といえるのではないでしょうか。
知財担当にとっては、隣の法務担当がどんな仕事をしているのかをざっと掴み、彼らの仕事観を垣間見る。そんな用途に使えそうな1冊です。
同じような用途に使える知財版はないかしら、と考えてみたのですが、狙いが共通しているのは、こちらの書籍でしょうか。こちらもストーリー仕立てになっています。1冊を通して題材が共通しているので、イメージはしやすくなっています。
- 作者: 宮川幸子,清水至
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2015/07/18
- メディア: 単行本
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ただ、残念なことに、「実務マニュアル」という本書の位置づけのため、ストーリーはいわば材料を提供しているだけで、解説のパートのアクセントに過ぎません。解説部分は膨大で、相当量を読んでいかないといけないため、ざっくり知財の仕事のイメージをつかむにはオーバースペックです。その分、実務のリファレンスとしては使えるだけの内容があります。
他に、発明協会の月刊誌「発明」で「知財部さんいらっしゃ~い。」という長期連載があります(書籍にはなっていないようです)。こちらは「企業知財担当者のためのコミュニケーション術」と銘打たれています。連載ですし、ストーリー仕立てというわけでもありませんが、実務でいかにもありそうなシーンが「今月の迷える知財部さん」として登場します。「ありのままの法務」に通じるところがある気がします。