特許の攻撃と防御、そして交渉

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特許の攻撃防御、そして交渉

自社で持てば武器になるが他社から攻撃されることもある。白黒つけるより、どこかで折り合う。手札を見極めて、交渉に臨む。

発明の本質から事件の見立てをする

昨秋出版されて気になりつつなかなか書店に行けなくて購入が今になってしまったのですが、「訴訟の技能」を読みました。

訴訟の技能――会社訴訟・知財訴訟の現場から

訴訟の技能――会社訴訟・知財訴訟の現場から

第1章の座談会の中で、事件の見立てについて話されているところがあるのですが、その中で、末吉弁護士が、知財事件において最も重要なことは発明の本質であるという趣旨の発言をされていて、ああやっぱりそうなのだ、と勝手に意を強くしましたので、少し長くなりますが引用させて頂きます。

このくだりは、中村直人弁護士の企業間訴訟についての発言を受けたものなので、まず、中村直人先生の発言の引用を。(強調は当方による)

一方で難しい事件、大事件の場合には、要件事実から入ってしまうと事件が明後日の方へ行ってしまうことが多い。難しい事件の場合には資料をとことん読み込む。資料をとことん読み込んで、お客さんの言い分を聞くのです。「なんで向こうはひどいやつだと思うの?」とか、「なんで僕らは正しいと思うの?」と。こちらが正義だと想う理由とか、向こうがひどいと想う理由とか、そういうスジみたいなものを考えて、私どもの正当性の根源はどこにあるのだろうというのを考えるのです。それは法律的な意味合いではなくて、「人間としてこれはひどかったよね」とか、「こういうのは向こうが嘘ついたよね」とか、何でもいいのですが、そういう法律以前のレベルで、「あっ、これはやっぱりこっちに正義があるよね」と思えるような根拠。それをつかんでから、そこから法律論を立て始めて、そうすると今度は法律解釈論で、これはどのような法律構成にすればいいのだとか、これは判例はあるのかとか、学説はあるのとか、そういうことになってきて。こう言ったら向こうは何と反論するだろうということを考えて、この点は証拠がある、この点は証拠がないと言うことを考えて、それでようやくストーリーが見えると、これは勝っているとか、これは難しいとか、これは法律解釈次第だから、どっちに転ぶか分からないとか、そういうのが見えてくるという感じだと思いますね。

これを受けた末吉先生の発言が以下の部分です。

・・・特許事件というのは、大きな事件も小さな事件も、みんな難しいと言うか、よくわからないというのが本当のところではないかと思います。まず、要件事実論というのがあるような、ないような。・・・また、動かしがたい事実はほとんどない。明細書にこう書いてあるとか、審査経過はこうであるとか、それぐらいが確実で、そこから先は1つひとつ分析・解釈を積み上げていくのです。そういう中で、訴訟の見込みというのは、ある意味で愚直に立てていくのですが、今の中村先生からご指摘があった企業間訴訟の場合の正当性に匹敵するもの、アナロジーは、特許の場合は発明の本質なのです

とくに特許権者の側の場合はそうですが、逆に侵害しているとされるほうもそうなのです。この発明は何がすごいのかと言うことを発明者の立場に立って、その発明の本質を見抜けたら、たぶんそんなに判断はぶれない。そんなにすごいならば有効でしょうし、そんなにすごいならば、もしかすると侵害になっている。そういう意味での発明の本質を見極めるというところが本当は究極の目的で、そのためにいろいろなものを読み込むし、技術を理解しようとする。

・・・いかに目標に向かっていくか、つまり発明の本質を見抜いた上で、それを裁判所に理解してもらう、そのための工夫がどれだけ上手にできるか。とくに太い柱を立てて、どう組み立てていくかというところが勝負です。

ここでは、発明の本質を見極めるために、「いろいろなものを読み込む」「技術を理解しようとする」と言われています。「技術を理解しようとする」方法としては、技術的知見に関するヒアリングの方法として、別のところで発言があり、本書の第2章第2節でも書かれています。座談会部分から引用します。

私は、ブラックボックス化だと思います。専門技術的な事項を同じ知的レベルでヒアリングすることはできません。ただ、細かいことまでは分からないが、細かいことをブラックボックスにした上で、インプットとアウトプットが噛み合ってくるところがある。たとえば、免疫反応。免疫反応は「鍵と鍵穴の反応」とよく説明されています。この「鍵と鍵穴の反応」のたとえは、一つのブラックボックス化です。この鍵と鍵穴の反応が、たとえば、抗原抗体反応です。これを基礎的な文献等で勉強する。これを基本として、問題となっている免疫反応を理解していくのです。

企業の知財担当者として発明の本質をつかむためにしていることについては、「技術思想としての発明を捉える」というエントリで以前取り上げました。これをいつも全部自分でするわけでもなくて、誰かが主担当としてやって、それをトレースする、それで正解かどうかを叩いて揉んでおく、という形で共有していきます。

mainstage.senri4000.com

末吉先生がおっしゃるように、対象特許の発明の本質がしっかりつかめれば、ストーリーとしてはぶれないものになっていくと思います。ただ、訴訟においては、本質が理解できたとして、それをいかに裁判官に説明するかという難しさがあり、特許と一括りにしても、説明(理解)のしやすい系統のもの、しにくい系統のものはどうしてもあります。理解して貰うことに失敗するリスクも鑑みて、事件の見立ては行う必要があります。