特許の攻撃と防御、そして交渉

特許の攻撃防御、そして交渉

自社で持てば武器になるが他社から攻撃されることもある。白黒つけるより、どこかで折り合う。手札を見極めて、交渉に臨む。

BLJ「ライセンス契約法」連載への期待と要望

前回記事の通り、大変高評価している本連載ですが、せっかくですから私自身の問題意識の一端の覚えを兼ねて、今後への期待と要望を書いておきたいと思います。

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見通しが知りたい

まずは、この連載がどこまで何をカバーされる予定なのかの全貌が知りたいです。前回記事で書いたように、とても丁寧に整理されていて理解の助けとなり大変ありがたいのですが、反面、全ての論点を扱うには長い時間がかかりそうな気がします。

リファレンスとしての価値も高いと思いますので、ぜひ全体を、粒度を揃えて取り扱っていただきたいと期待しており、期待とともに待ちますので、粗い目次のようなものが提示されると嬉しいです。

ライセンスにおける一般条項の考え方を

これまでの連載でも、知的財産権法と民法の2つに分けて整理されており、知財屋にとっては民法側の丁寧な解説がとても有用です。今後の連載で読みたいと思っているのは、ライセンス対象や範囲を定めるコアの部分よりも、いわゆる一般条項でカバーされる契約条項の方です。これらをライセンス契約特有の事情に照らした場合にどのように理解しておけばよいのか、発動されたときにどうなるのかを考える補助線になるような解説を期待します。

具体的には、特に、契約当事者、契約約上の地位の譲渡、解除、終了後の残存条項、契約違反と損害賠償の考え方あたりを期待しています。特に、特許のライセンスであって、その対象が特定の特許権ではなく包括的なものであったり、グラントバック条項が付いていたりする場合には、契約の建て付けをきちんと考えておく必要があると思っていますが、実務的にはどうも流している気がします。いくつか思いつくものについて、詳細を以下述べておきます。

契約当事者

契約当事者にグループ会社がある場合、グループ会社をどこまで契約のカバー範囲にいれるべきでしょうか。ライセンシーとして、ライセンサーから提供される雛形の契約書では、当事者としてはグループ企業のトップの会社を想定している場合もありますし、単独会社を想定している場合もあるようです。一番多いのは、実施する会社を当事者として、ライセンスのカバー範囲に子会社までを含める形でしょうか。広くする場合は、カバー範囲を関連会社として、関連会社の定義を親会社(controlled by)・子会社(controls)・親会社を共通にするグループ会社(under common control)とします。海外ではunder common controlも割によく見かける気がします。

昨今は企業再編が多く、企業グループによっては、ライセンス権限を与えられた専門の子会社が契約当事者になってくることもあります。また、契約の当事者と支払の当事者が異なる場合も珍しくありません。当事者は事業会社で、ライセンス収入の管理は管理子会社が行っていることもあります。なお、海外の企業との間でのライセンス契約の場合、契約当事者と支払先(請求書の発行元)が異なると、租税条約の届出書との関係で税務署と一悶着あったりしますので要注意です。こうした役割ごとに法人が異なる場合は、細かく注意を払って契約書に盛り込む必要があります。

企業再編も頻繁にあります。実際にライセンス対象の実施を行う会社が企業グループの1子会社であった場合、その子会社ごと企業グループの外に売却されてしまうかもしれません。これを嫌って、契約の当事者として、企業グループのトップの会社であることを要求されることもあります。しかし、グループトップの親会社は事業会社でない持ち株会社であったり、管理機能だけを持つ会社であることもありますので、ライセンス契約の当事者としてなじまなかったり、社内の承認権限との関係でライセンシー側としてはあまりありがたくないこともあります。

このような、契約当事者周りの整理ができるとありがたいです。

契約上の地位の譲渡

M&Aが珍しくない昨今です。ライセンス契約は、通常譲渡禁止条項を置いていると思いますが、事業譲渡されたり吸収合併されたりして相手方の会社がなくなってしまうこともよくあります。知らないうちに相手が変わっていたのではまずい場合もあるでしょうから、通知や承諾義務を置いたりしているのではと思います。どのような場合を想定してどこまで定めておくのがよいでしょうか。

関連して、 Change of Control条項(当事者が特定の第三者の配下に置かれた場合には契約が終了する)が置かれることがあります。事業会社間のライセンス契約だと、相手方が競合に買収されたような場合に解除できるようにしておきたいこともあるのでしょうか。

これらは、上述した契約当事者をどのように設定するのかとも絡んで来ると思いますが、事業譲渡や契約上の地位の譲渡という観点から、どういう場合にどのような条項が有用で、どういう場合には置いても大して意味がないのか、考え方を整理しておきたいです。

解除条項

解除条項は、あまり深く考えずに提案されたものを飲んでいることが多くあります。ライセンス契約の本旨を押えた上で、契約関係がうまく行かなくなるときをどのように想定しておけば良いのか、そうした場合に契約関係から離脱する(=解除する)のはどのような意義があるのか、といった整理が欲しいです。

契約違反を理由とする解除

よくある解除事由として、契約違反+催告後も治癒しない場合、さらに、それが重大な場合は解除し、加えて損害賠償請求できる、というのがあります。

単純な特許ライセンス(ノウハウなどが付属しない)だと、ライセンサー側に特に契約上の義務はなく(権利不行使くらい)、ライセンシーの義務は対価の支払に尽きます。

対価の支払も、固定額一括払いのみだったりすると、その1回で義務は終わりです。支払遅延とか、契約したのに支払わないとかのトンデモケースをどこまで想定しておくかというのはあるにしても、単純にお金の話です。一括払が分割払いになったり、年額固定の実施料になったとしても、やっぱり払うか払わないか、期限を守って払うか、だけの話です。このような契約でも上記のような解除条項が入っていると、いったい何を想定されているのだろうと疑問に思うのですが、これは想定されないから文言をこのように修正しましょう、とまで言い切れるほどの自信がなかったり、単純に一般条項で時間をかけるのが手間だったりしてそのまま放置することがよくあります。反論の基盤をつくる理論をいただけるとありがたいです。

監査条項との関係

固定額払いでない、ランニングロイヤリティ付きの特許ライセンスの場合には、正しく算定されているか、算定に従って支払われているかは重大な義務になります。最も揉めやすいところであり、悪意があれば誤魔化して報告することも可能な反面、煩雑で、ヒューマンエラーが起きやすい性質の処理でもあり、監査条項をどう作るかとも関係してきます。また、支払対象の製品の定義によっては、特許の実施の有無が関わってくることになり、さらに揉めやすくなります。蛇足ですが、支払対象の製品を対象特許を使ったものに限定したくなるのはライセンシー側としては山々なのですが、これをやると微妙な線で再び揉めることになるので、特許とは関係のない定義を置いてしまうことができればその方が全体としてみれば有用だと考えています。

このような、ランニングロイヤリティの支払を巡って問題が起こった場合には、ライセンサー側としては契約違反だと主張したいため、その前提として監査を実施させろとなることが多いでしょう。ライセンシーとしては、監査を行われると大抵の場合どこかにエラーが発覚しますし、意見の対立が出ることが想定されることに加え、そもそも通常業務に当てているリソースを監査のために相当量割り当てる必要があるため、あまり受けたくはありません。ということで、どういった場合に監査を認めるのか、そのやり方はどうあるべきか、監査の結果誤りが発覚した場合にはどうするのか、さらに、意見の対立が解消しなければどうなるのか、これらの究極的な解決として、解除権や損害賠償請求権との関係はどうなるのか、といった建て付けをしっかりしておく必要があります。なかなか想定ケースを詳細に分岐させて考えておくことが難しいので、このあたりもガイドが欲しいです。

解除条項の対等性

一方向のライセンス契約は、ライセンサー側の義務がほとんどないため、解除自由をライセンシーのみに限定して作られることがあります。上述したように、大して意味のない条項であれば、どちらでも構わないのですが、対等な形にしておく意義がある場合があれば押えておきたいです。

グラントバック条項との関係

特許の数が多い電機分野では、対等な包括クロスライセンスでなくても、ライセンシーの対価の額を減らす道具として、また、ライセンサーの設計自由度の確保を目的に、広範なグラントバック条項が置かれることがよくあります。グラントバック対象特許の評価にもよるのですが、この条項を理由に解除条項を対等な形に持っていくことがあります。

グラントバック対象特許についても不争義務(後述)を付属させ、それに違反した場合を解除事由に加えておくと、対等な形でもあまり違和感がないように見えます。とはいえ、これは適切なのだろうか、と思うこともあります。

不争義務を伴うライセンス契約の場合

ライセンス対象特許について、不争義務(ライセンス対象特許について無効審判等を請求して有効性を争わない、有効性を争う他社を援助しない)が付属する場合には、この違反を解除事由に入れるのが通常です。この場合はライセンスを維持されたまま争われたのでは特許権者側に不利なため、まずは解除して権原ない状態に追い込んでおく必要があります。これについては割とすっきり理解ができると思います。

一方、グラントバック条項をつけた場合には、ライセンシーとしては同様の不争義務を対等性の観点から付すことがあります。そして、ライセンサーがグラントバック対象特許についてこうした行為を行った場合には、以後の契約期間分は無償ライセンスを保持しつつ、契約は解除という作りにしたりします。これらは、いくつかの型が考えられると思いますので、整理していただけるとありがたいです。

倒産などの解除事由

解除事由では、会社が傾いたとき(破産や債務超過など)も入っていることが多いですが、この意義はどうでしょうか。ライセンシーとしては、ライセンサーが傾こうが潰れようがライセンスは生き残って貰う必要があります。このあたりは倒産法制度との関係があり、紆余曲折を経て当然対抗に落ち着いたことは連載でも詳細に解説頂きました。これを前提にしつつ、解除条項はどう立てておくのがよいのか、という観点になるかと思います。

ライセンシーが倒産するような事態に陥った場合でも、ライセンサーには元々大した義務があるわけではないため、ここに解除権が要るのだろうか、とはよく思います。解除して、損害賠償請求に切り替える方がよい場面が想定されるのか?とも思うのですが、よく分かりません。

残存条項

解除条項を設けた場合には、同時に解除後も残存する義務を特定しておく必要があります。典型的には秘密保持条項だと思いますが、契約によっては殆どの条項が残存条項に入れられていたりして、解除の意味はどこにあるのだろうと疑問を持つこともあります。ライセンス契約において解除後も残存させるべき条項とその理由について整理していただけるとありがたいです。