特許の攻撃と防御、そして交渉

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特許の攻撃防御、そして交渉

自社で持てば武器になるが他社から攻撃されることもある。白黒つけるより、どこかで折り合う。手札を見極めて、交渉に臨む。

最近の米国PAE系訴訟の傾向(2) 高い賠償及び差止リスク

アメリカ 侵害 特許

BLJ 連載の第3回(2015年1月号)は、「高い賠償および差止めリスク」でした。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2015年 02月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2015年 02月号 [雑誌]

米国特許侵害訴訟での損害賠償

ミノルタ・ハネウェル訴訟で高額の損害賠償が認められて(1992)以降、米国特許訴訟での損害賠償についてのイメージは、以下のようなものでした。

  • 算定手法の特性や陪審の評定により、賠償額が高額になりやすい

  • 故意侵害の場合には、実損害を超える懲罰的賠償が認められる(三倍賠償)

  • 故意でないことを立証するためには、弁護士の鑑定書が必要で、鑑定書の取得自体に高額の費用がかかるため、すべての特許について事前に鑑定書を取得しておくことが難しい

三倍賠償を含む損害賠償については、米国特許法284条に規定があります。

§284. Damages

Upon finding for the claimant the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement, but in no event less than a reasonable royalty for the use made of the invention by the infringer, together with interest and costs as fixed by the court.

When the damages are not found by a jury, the court shall assess them. In either event the court may increase the damages up to three times the amount found or assessed. Increased damages under this paragraph shall not apply to provisional rights under section 154 (d).

The court may receive expert testimony as an aid to the determination of damages or of what royalty would be reasonable under the circumstances.

PAEの起こす訴訟では、故意侵害(wilful infringement)が主張されることが大半です。仮に認められれば三倍額まで引き上げられる可能性があり、その上故意でない立証の負荷が高いとなると、陪審審理まで行かずに和解で終結させる方向にドライブがかかる効果があると言えます。

なお、284条には、裁判所が賠償額を引き上げることができる、とは規定されていますが、それがどのような場合なのかについては定められていません。故意侵害の場合がそれに該当する、というのは、CAFCが定立したルールによっています。現在、それが妥当かどうかについて、2つのケースが最高裁に係属しており(Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc., S.Ct. No. 14-1513 and Stryker Corp. v. Zimmer, Inc., No. 14-1520)、最高裁の判断により基準が変わるのではないか、と予想されていますので注意が必要です。

算定手法の変化

損害賠償額は、上記の特許法284条で「実施料相当額を下回らない、侵害の補償に十分な額」 (adequate to compensate for the infringement, but in no event less than a reasonable royalty)とされています。これを具体的にどのように算定してくのかは、これまでの判例で決められて来ていますが、一般に、被疑侵害者の実施の開始前に、ライセンス交渉を行ったと仮定して、実施料を仮想的に計算する手法が取られます(この手法を示した判例の名称を取って、Georia-Pacific アプローチと呼ばれます)。この手法自体が示された判決(Georiga-Pacific Corp. v. United States Plywood Corp., 318 F. Supp. 1116 (S.D.N.Y. 1970))は1970年と古いものですが、手法自体は合理的なもので、現在でもケースに特有の事情を加味しつつ多くの裁判で使われています。

ここで考慮される要素としては、対象特許に関する既存のライセンスにおける実施料率、対象特許と類似する特許の実施料率、対象特許技術を用いて生産された製品の利益率、、、、など(判決では、15の要素が取り上げられています。こちらに詳細が掲載されています。)があります。

これらの中で、製品利益に占める対象特許の貢献度があります。1つの製品が1つの特許でカバーされるのでない、数多くの特許が関係する技術分野においては、大変重要な問題です。これを決定するためには、本来は対象製品に用いられている他の特許についても考慮しなくてはなりませんし、もちろん、特許以外の要素も多くあります。それを短い審理期間の中で全て取り扱うのは困難であるため、手法が開発されてきました。こうした手法に、25%ルールとEntire Market Value Rule (EMVルール)があります。

25%ルール

これは、その特許の貢献度をいったん25%と推定し、そこからスタートするというものです。推定ですから覆すことは可能ですが、起算点が決められてしまうと、どうしてもそこに引きずられるため、大きく減らすのは難しくなります。何千・何万と特許が使われている製品において1件・数件の特許の貢献度が25%というのは現実的ではありませんが、とりあえずスタートするとどうしても高止まりしてしまうというわけです。

この25%ルールが、2011年のCAFC判決(Uniloc USA Inc. v. Microsoft Corp)で廃止されたようです。面倒がらずにちゃんと寄与度を考えて賠償額を算定しなさいということになったようですね。

EMVルール

また、損害額の算定においては、算定ベースをどこにおくかという問題があります。製品全体なのか、特許の及ぶ範囲(例えば一部の部品)だけなのか。これは、エンジンの特許で自動車全体を算定のベースにすることの是非です。これには特許の権利範囲がどのように構成されているかという観点と、市場に流通している単位の観点があります。

特許侵害をしている部品を搭載した製品は全体が侵害品になりますが、その特許の権利範囲の文言上、部品(=エンジン)が対象物なのか、特許上も製品全体が(=自動車)対象なのかの差があります。特許の権利行使という観点からすれば、製品全体に及ぶ方が望ましいため、可能な限り製品全体をカバーするように文言を書くのが通常です。対象が部品であれば部品メーカーに権利行使することになりますが、対象が製品全体であれば最終製品メーカーに権利行使ができます。市場には製品の方が顔が見えていますので、権利行使はし易いのです。

クレームの文言を製品全体に及ぶように作る場合でも、発明の特徴部分が一つの部品の中で完結しているのであれば、実質上は部品の発明であるとみなせます。おそらくは、部品を対象とするクレームも存在しているでしょう。一方で、特徴部分が2以上の部品に分かれていたり、特徴部分は1つの部品に集中しているけれども、ごく一部が他の部品と協働するという場合もあります。

このように部品にしか特許が及ばない場合にも製品全体の価格を算定ベースにするというルールが長らく適用されてきました。市場で取引されているのは製品全体であり、特許がその製品の販売に寄与しているのであれば製品全体を算定ベースにしても構わないだろうという価値判断であったと思います。プロパテントの時代背景もあったと思います。ただ、これって程度問題で、どんな特許であっても製品の機能に貢献していて市場で訴求できているという主張は可能で、全体として算定ベースを引き上げる効果が高く、損害額を高騰化させる原因の一つであったと思います。

製品のごく一部に関係した特許であっても、その特許の寄与度がそれに見合って低く算定されれば特に問題はなさそうですが、実際は料率の設定が低くなされるかというとそうではなかったようで、結局高い方にばかり振れるという効果がありました。

2012年のCAFC判決(LaserDynamics v. Quanta Computer)において、算定ベースは原則として販売可能な特許実施の最小単位とするとされました。これによって、 Entire Market Value Ruleの適用は、特許発明が製品全体の需要を牽引する場合に限定されました。

最近増えている標準必須特許をめぐる侵害訴訟の一つであるInnovatioケースでは、この最小販売可能な最小単位が用いられて料率が計算されています。無線通信チップがこの単位とされ、チップ1枚につき0.1ドルとされています。

また、標準規格との関係で言えば、昨年、IEEEがIPRポリシーを改定しており、この中で、最小販売単位を用いることを宣言して話題になりました。IEEE-SA Standards Board Bylaws 6. Patents 内の「Reasonable Rate」の定義の中で、考慮すべき要素として、以下のように規定されています。

The value that the Essential Patent Claim contributes to the smallest saleable Compliant Implementation that practices that claim, in light of the value contributed by all Essential Patent Claims for the same IEEE Standard practiced in that Compliant Implementation.

故意侵害基準

従前、米国特許の侵害可能性に気がついた場合には、非侵害を確認する義務があるとされ、このためには弁護士による鑑定書が必須とされていました。

企業の通常の開発プロセスにおいて、企画段階・開発段階・設計段階、遅くとも製品の出荷前には他社の特許を侵害していないかを調査します。ここで「抵触可能性あり」とされる他社特許が全くないということは稀です。いったん可能性ありとして上げた上で、詳細に企画中の製品の構成と特許の権利範囲を比較し、非侵害とするのが難しければ回避策を講じたり、ライセンスを取得したり、無効資料を探したりという行動に繋げていきます。

この段階で、非侵害と社内判断しただけでは不足で、社外の、米国の特許弁護士の鑑定を取得すべし、というのが長い間の実務だったわけです。弁護士の鑑定書を正式に取るには相当のコストがかかります。これでは他社特許調査を行うインセンティブが阻害されるという話も出ていました。調査したばかりに関係があるかもしれない特許が見つかってしまい、故意と言われないために鑑定書を取る必要が出てきてしまう。いったいどの程度近ければそうしなければいけないのか?それを社内判断していたら故意だと言われないのか?安全サイドに振ると、膨大に手間も費用もかかる。ならばいっそ調査しなければ知りようがないのでは?ということです。

これについても、基準が上がりました。2007年のCAFC判決(In re Seagate Technology, LLC, 497 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2007))において、客観的無謀性(objective recklessness)基準が採用されたのです。これは、2つの要素からなり、被疑侵害者が「有効な特許を侵害している可能性が客観的に見て高」く、「侵害リスクを認識していたか、あまりにも自明であるため認識していたであろう」ことが必要とされます。この2つを満たすのはかなりハードルが高いため、故意侵害の立証は相当困難になったと言えます。また、特許法改正の際、鑑定書の未取得を持って故意侵害の認定をしてはならないことも成文化されています(298条)

§298. Advice of counsel

The failure of an infringer to obtain the advice of counsel with respect to any allegedly infringed patent, or the failure of the infringer to present such advice to the court or jury, may not be used to prove that the accused infringer willfully infringed the patent or that the infringer intended to induce infringement of the patent.

但し、先般の最高裁判決で、無効資料を準備して無効だと確信していただけでは故意侵害を免れないという判断が出ていますのでこの点は注意が必要です(Commil USA, LLC v. Cisco Systems, Inc. (Supreme Court 2015))。侵害と無効は別の話、というのが理由のようですが、実務的にはセットで考えます。そもそも無効なら侵害はあり得ない。広すぎるから文言上含まれてしまうだけというケースも多くあります。こうした場合には、無効だからすなわち非侵害と考えるのが素直だと思いますので、多少違和感があります。無効だと思うなら潰しておけということなのかもしれませんが、寝た子を起こすことにもつながりかねませんので、実際には難しいでしょう。

差止請求

昨年(2014年)には、日本でもアップル対サムスン事件の知財高裁判決で、標準必須特許では原則として差止請求権は認められない趣旨の判断がなされ、話題になりました。特許権の内容としては差止請求権は基本で、余程のことがないとその制限はないようなイメージがありますが、英米法の下では損害賠償と差止請求権は出自が異なり、後者は当然に認められる性質のものではないとされてきた歴史があります。

米国特許法283条に、差止めを認めるかどうかは裁判官の判断によることが定められています。とはいえ、2006年のeBay判決前までは、特許訴訟では特に制約なく原則的に差止が認められてきました。

§283. Injunction

The several courts having jurisdiction of cases under this title may grant injunctions in accordance with the principles of equity to prevent the violation of any right secured by patent, on such terms as the court deems reasonable. (July 19, 1952, ch. 950, 66 Stat. 812.)

それが、eBay判決において、特許訴訟といえどもその他の訴訟と変わりなく、エクイティ(衡平法)の原則が適用されることが確認され、以下の4要件を充たすべきとされました(eBay Inc. v. MercExchange, 547 US. 388 (2006))

  1. 原告が回復不能な損害を被ること ( it has suffered an irreparable injury)

  2. 損害を補償するのに金銭的賠償だけでは不十分であること ( it does not have adequate remedy at law)

  3. 原告と被告双方の不利益を比較衡量した場合、差止による救済が妥当であること (an equitable remedy is warranted after balancing the hardships between plaintiff and defendant)

  4. 終局的差止命令によって公益が損なわれないこと (a permanent injunction serves the public interest)

PAEは、事業会社ではなく、特許を実施していません。このような場合には、1の要件である「回復不能な損害」が発生せず、2の要件にある「金銭的賠償」で十分な救済が得られるとされます。このような判断で差止請求が却下されることが続いたため、いまではPAEの訴訟では差止請求自体がほとんど行われなくなっています。

PAEの訴訟目的は金銭を得ることなので、差止請求により被疑製品の市場での販売を止めたいわけではありません。しかし、そうなった場合の被告事業会社への影響は甚大です。このため、差止の恐れがあるということは、「金で片付く」損害賠償よりも被告にとって高いリスクとなり、原告が被告に対してかけるプレッシャーとしての威力は格段に高くなるのです。被疑侵害者サイドとしては、差止の心配をしなくて良くなったのは相当負荷が軽くなったと言えます。訴訟で差止命令が認められなくなって以降、PAEがITC (International Trade Commission(国際貿易委員会):独立行政機関で、米国内の産業の保護のために特許侵害品の差止権限を有する)を利用する頻度が高まったのはこれを裏付けています。

現在・今後の流れ

このように、従前は、差止を梃子にしつつ、故意侵害を言い立て、製品全体の価格を算定ベースに高額の損害賠償を請求する、という図式だったものが、PAE訴訟においてはどれも認められにくくなり、これらを背景に和解へ進ませて金銭を得るというビジネスモデルが成立しにくくなっていると言えると思います。被疑侵害者側にとっても、まともに争いたくても裏目に出たときのリスクが高すぎて踏み切れない、といったことは減ってきていると思います。

AIAの改訂審議を見ていたり、裁判所の動きを見ていたときには、そうそう変わるものだろうか?と半ば疑問視・半ば諦めていたのですが、色々積み重なると流れは変わるものだというのが現場での実感です。(まだ要素として2つだけ取り上げたところなので、この先取り上げる予定の項目も含めて、ということで、先走っていますが)