特許の攻撃と防御、そして交渉

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特許の攻撃防御、そして交渉

自社で持てば武器になるが他社から攻撃されることもある。白黒つけるより、どこかで折り合う。手札を見極めて、交渉に臨む。

相手の立場で考える

思考の癖

訴訟の提起や警告状の送付などで権利行使を受けた場合、つい、自社のポジションを固めようと躍起になってしまいます。自社製品が権利範囲に含まれるかどうか(属否)を考えるときにも、自然に違いを探しますし、特許請求の範囲の文言も狭く解釈して自社有利にしがちです。自社の立場で仕事をする以上、とても自然なことなのですが、これは視野を狭め、相手の主張が不意打ちになる危険があります。

また、「正解」を求めたくなることもあります。解法がいくつかあっても、解は一つと思ってしまうというか。しかし、特許の権利解釈や属否解釈に正解はなく、幅のある解釈の中で当事者間が合意する、あるいは、第三者の決定を仰いで決定したものが採用されるに過ぎません。場合によっては、平行線のまま解釈は決着させずに事案の解決をはかることすらあります。このため、常に、幅をもっているということを頭に置き(場合によっては呪文のように唱え)、解釈を考えていく必要があります。

幅を考える

私自身が行っている手法としては、まずは自社の立場や自分の志向は脇に置き、対象の特許と被疑製品をニュートラルに前に置いたときにどう考えられるかを考えるところから始めます。この時点では、いわゆる当業者が用いるだろう技術常識自体も一旦脇に置きます。特許の請求の範囲に書かれている文言を日本語として素直に読んだときにどう読めるのかを考えます。

まずは、極端に特許権者有利な解釈をしたらどうなるか、ついで、極端に自社有利な解釈をしたらどうなるかを考えます。そのような解釈ができる根拠とともに。両者の間が解釈の幅になります。

次に、それぞれの解釈の強さを考えます。根拠がどれだけ強いか、反論がどれだけ可能か、反論の強さ(反論の根拠の強さ)がどのくらいか。この段階で、明細書に書かれていることや出願経過、技術常識を根拠の一つとして入れていきます。

すると、自社のポジションの強弱感が見えてきますので、それを前提に方針を組み立てます。

技術常識から自由になる難しさ

私にとっては、以上のやり方が自然でやりやすいと思っていたのですが、技術担当と話したところ、技術系のバックグラウンドがあると、どうやら自身の技術常識が邪魔をして、技術常識を脇に置いて文言だけで中立的に解釈するというのが相当難しいようです。そこで、無理やり権利行使側の立場に立って解釈するとどうなるかを必死に考えるところから始めるとか。

自社有利な解釈は自然に出てくる、ということですが、これも、もっと強気に行けばどうなるかと無理やり考えます。そうしないと、答えが最初から1つに絞られてしまい、交渉材料が乏しくなってしまいます。

これまで、技術系のバックグラウンドがないのが弱みと思ってきましたが、先入観なく中立的な解釈がしやすいという点では案外よいのかもしれません。ただ、当社の担当は経験は長いものの弁理士資格があるわけではなく、特許的な専門知識をベースに仕事をしているわけではないので、もしかすると体系的に特許的な教育をすると変わってくるのかもしれません。開発エンジニアからの異動してきた方などは、誰しも自分の無意識に身についている技術常識に囚われる傾向があり、そこから意識的に抜け出すのに苦労するようです。後知恵問題もここからきますね。

いずれにしても、そのような落とし穴に落ちやすいということが分かっているだけで大きく違いますので、無理やりでもなんでも、初動の段階では解釈を一本でなくできるだけ広い幅で持つようにすることが重要だと思います。

渉外担当のスキルとして

このように考えること、自分の思考の癖を承知していて、それを前提として、可能な限りそれに左右されないように考えることは、渉外担当として必須のスキルの一つと言えるかもしれません。